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外来種に対する我々の正しい対応とは?「外来種のウソ・ホントを科学する」 著:ケン・トムソン 訳:屋代通子

初投稿です。

 

外来種のウソ・ホントを科学する | ケン トムソン, Ken Thompson, 屋代 通子 |本 | 通販 | Amazon

外来種」という言葉にはほぼ確実にマイナスイメージが付きまとう。今月6日の毎日新聞の記事を例として見てみよう。
アライグマの農業被害が深刻化 2500万円損失 

mainichi.jp


香川県内ではアライグマによって深刻な農業被害が出ており、しかも近年急激に被害額が増加しているという。それに加え、狂犬病の媒介、夜間の騒音など人間に対する被害は測り知れない。これだけ見るとなんとけしからん動物なのだと思う方も多かろう。アライさんまたやってしまったねぇ 

 

WWFによると(外来生物問題|WWFジャパン)、外来種がもたらす害としては

①在来種を捕食する

②在来種と競合する

③在来種と交雑する

④新たな感染症を持ち込む 

といったものがある。それなら、外来種に対しては常に毅然とした対応をすべきで、その存在を許してはならないのだろうか。どうもそうではないらしい。

生態系や人間の環境に悪影響をもたらすのは外来種だけなのか?在来種はおとなしくしているだけの存在なのか?外来種による生態系への影響は正しく計測されているのか?
その疑問に切り込んだのが本書である。

「動く」生物

まず前提としておかれているのが、生物は長い時間の中で一か所に留まっていることはなく、常に新天地に向けて移動する可能性があるという事実だ。地球の気候がゆっくり変化するごとに、気温は上下し、海は消滅し、植生は入れ替わる。それらが生物に生息域を変えるチャンスを与える(言い換えれば変えざるを得ない状況に追い込む)わけだ。移動した生物がそこに取り残されてしまうこともある。また気候変動が起こると取り残された生物は大幅に数を減らすかもしれないが、偶然有利な形質を持っていたものは生き残る。このため生物の移動は進化のきっかけにもなっているといえる。話を元に戻すと、以前はこのように長いスパンで起こっていた生物移動が急速にスピードを上げているのだという。原因は無論、人間の活動である。

侵略的?外来種

移入種には園芸用の植物、ペットとして移送される動物など、意図的に移入される生物のほかにも、輸送船の積み荷に紛れてちゃっかりやってくる奴らがいる。そのまま自然界に入ると、大体の生物は定着できずに絶滅してしまうが、まれに生き残るものがいる。それこそが外来種なのだが、先述の通り在来種や人間に悪影響を与えることがある。しかし深刻な問題を発生させるのはその中のごく一部であり、多くの種が不当に差別を受けているとトムソンは論じる。

在来種を押しのけて幅広く繁栄しているように見える外来種でも、その土地の土壌を肥沃にさせたり、種子の運搬を助けたりといった、むしろ生態系に対してプラスになる働きをしていることもあるのだという。しかし完全とは言えないデータをもとに侵略的外来種と誤解され、積極的に駆除が行われることもあるのだとか。嘘のようだが決して珍しいケースではないらしい。

悪魔の爪

本文中にはオーストラリアに移入されたデヴィルズ・クロー(ツノゴマ科の植物)の例が挙げられている。この植物が生態系に大規模な影響を与えているという証拠はどこにもなかったのにも関わらず、多額の費用をかけて駆除政策が実行されている。こんなことが起こってしまった理由として、「悪魔の爪」という名前が恐ろしかったのかもしれないと筆者は書くが、あながち間違いではないのかもしれない。その他にも、ある生物の減少の原因と目されていたため駆除を行ったがまったくの濡れ衣だったとか、不十分な根拠から駆除を決定し、他所から新たに生物を移入してまで対策を行ったが、その移入した生物が新たな外来種となってしまった、といった事例が紹介されている。

よそ者バイアス

筆者は外来種は悪者で、在来種は善人」といった考え方によって今まで外来種対策が行われてきたが、そこには統計学的なデータがあまり考慮されておらず、結果として徒労に終わったり、むしろ状況を悪化させることもあったと論じる。在来種による漁業被害や農業被害も存在することを考えると、在来種が善人というのも一概には言えまい。筆者は先人への批判も交えながら、外来種に対してまことしやかにささやかれている「神話」を、各種論文を紐解きつつ次々と切り崩していく。

 データを武器に

外来種は分布域を大きく広げる、とは言っても、当然それは生息できる範囲内である。また多くの外来種は人間の居住地近くで繁栄するという。人間の活動とともに移動してきたのだからそれも当然と言えるだろう。外来種は自身の生態的地位に基づいて行動しているだけで、それがたまたま人間や生態系への害になっているだけとも言える。しかし沖縄のマングースやグアムのミナミオオガシラのように深刻な被害を出している外来種が存在することも事実であり、対策は必ず迫られることになる。その対策を考えるときに武器になるのが統計学的な解析なのであった。外来種が自然界でどう振舞っているのかをデータの見地から見ることで、効率的な駆除を後押し、無用な駆除を減らすことができる。人間が世界中で活動している以上外来種の発生は避けられないのだから、せめて人間の英知を利用し、どう付き合うかだけでも考えることが重要なのではないか?と、そう思わせる一冊だった。

さて、この本には世界各地の外来種事情が数多く登場する。それぞれの外来種がどんな経緯で渡ってきたかも詳しく説明されているので、一見の価値ありである。